妻中便り

第23回聞き書き甲子園 – 本校生徒が農林水産大臣賞を受賞!

第23回「聞き書き甲子園」で、本校の小林華音さんが農林水産大臣賞を受賞しました。 このプログラムは、全国の高校生が森・川・海の「名人」を訪ね、その知恵や技、心を「聞き書き」し、記録・発信する活動です。その取り組みのレポートを紹介します。

私は「聞き書き甲子園」にチャレンジしました。 聞き書き甲子園は、高校生が日本の様々な地域で暮らす森・川・海の名人を訪ね、自然と共に生きる知恵や技、生き方を一対一で「聞き書き」するプログラムです。夏休みの3泊4日の研修を経て、名人に2回取材をしに行きます。取材の内容を全て録音しておき、それを一字一句書き起こします。名人の語り口調を活かしながら不要な部分を削除し、並びかえ、整理して、名人の一人語りの作品に仕上げます。そして、聞き書きを通じて学んだことを成果発表会で発表するというのがプログラムの一連の流れです。

今回は、聞き書き甲子園への応募から成果発表会までを詳しくお伝えできればと思います。

【参加動機・夏研修まで】

自分の知らない世界を見てみたいと思い、ネットでさまざまな外部活動を検索していたところ、聞き書き甲子園を見つけました。全国から高校生が集まって研修をし、それを経て一人で知らない土地の名人に会いに行くという、普通に高校生活を送っていたら経験することのできない活動内容に惹かれ、応募を決めました。また、伝統的な技術を繋いできた、歴史の一部といえる方々の声を生で聞きたいと思ったことも参加の決め手となりました。これらの動機を志望理由書に書き、選考を経て参加できることが決まりました。その後、富山県氷見市の取材を担当することになり、夏研修に向けて、聞き書きというものについてや氷見市についての事前学習を行いました。

【夏研修】

夏研修は「高尾の森わくわくビレッジ」にて行われました。東京駅に集合し、バスで現地に向かいました。3泊4日の研修に期待と不安が入り混じっていましたが、みんなと打ち解けることができ、とても楽しく過ごせました。

夏研修では、主に講習、聞き書き取材の実習、講義が行われました。

① 講習

はじめに、「聞き書きとは何か」について、作家である塩野米松さんに教わりました。対話をしながら取材をすることや、名人の職業を通じて人生を浮かび上がらせることなど、作品を完成させるうえで大切なことを学びました。「取材をする人によって質問の切り口が違うから、同じ名人に取材しても全く違う作品ができる」という塩野さんの言葉を聞き、自分と名人にしかつくれない作品というものにワクワクしました。

② 聞き書き取材の実習

この実習は、地域担当者の方を名人に見立て、聞き書きをするというものです。私を含めた氷見市の取材を担当する6人のメンバー(以下氷見班)で、氷見市担当者の方に取材をするための質問出しをしました。それをもとに40分ほど取材し、取材の録音データを氷見班全員で分担して書き起こし、文章整理や編集を行いました。氷見市担当者の方の口調を活かして一語一句全て書き起こすというのは意外に大変な作業で、録音の倍の時間がかかりました。書き起こした後は、同一内容を同じ段落に持ってくるなどの文章整理を行い、主語を補ったり、読者の気を引くような小見出しを考えたりするなど、地域担当者の方の仕事についてだけでなく、その方の人生や魅力に迫った作品を完成させることを心がけました。完成させた作品は、塩野先生、GL(グループリーダーという聞き書き甲子園のOB・OG)等の方々から講評をいただきました。

③ 講義

渋沢栄一のひ孫である澁澤寿一実行委員長から講義を受けました。「人類と地球の共存」をテーマに、SDGsと絡めて、持続可能な社会をつくるためにはどうすればよいのかというお話をしてくださいました。「名人は『職業』ではなく『そういう生き方』をしていて、自分の人生に誇りを持っている。人生は職業選択ではなく生き方づくりなんだ。」という言葉が印象に残りました。山で木こりをしている人は、自分たちのためにやっているのではなく、もっと先の世代のために仕事をしている、という話を聞き、その仕事が世代と世代を繋ぎ、伝承されていくものなのだなと思いました。「未来は過去と現在の延長線上にある。聞き書きは、記録を残すだけじゃなくて未来を考えるためにある。」という言葉を聞き、名人がどのように生きてきたかの追体験を聞き書きして想いを重ねたいと思いました。


【名人への取材】

私は9月に2回、氷見市で和船船大工をされている番匠光昭さんに取材を行いました。アポ取りの段階で何度か電話越しにお話をしたことで、取材当日は緊張することなく臨むことができました。事前に考えた質問をもとに取材に行きましたが、取材をするうちに会話が弾み、「質問したい」ではなく「会話したい」という気持ちで楽しんで取材を行うことができました。そのこともあり、和船の道具の話からプライベートのことまで、幅広いお話をしていただけました。和船をつくる過程だけでなく、使う木の種類を実際に見せながら説明してくださったり、製材所に連れて行ってくださったりしました。それによりさまざまな角度から和船というものを捉えることができました。職人として技術を受け継いできただけではなく、誇りとこだわりを持って仕事をしている姿を見せていただきました。

番匠さんに取材をするなかで特に心に残ったのは「自然が失われつつあるんや。」と何度も口にしていたことです。「和船船大工は山と海を繋ぐ職業。だから山と海のどちらが欠けても成り立たないんや。」という言葉を聞き、環境破壊が進むと、伝統技術も失われてしまうかもしれないということに気づかされました。今まで「環境破壊=動植物に悪影響を及ぼすもの」だと思っていたので、違った側面もあることに驚きました。


【書き起こしから作品完成まで】

私は2回の取材で計14時間の録音データがあったので、書き起こしにとても時間がかかりました。どのような文章構成にしたら、和船船大工という職業、番匠さんという名人について多くの人に知ってもらえるのだろうかと考え、試行錯誤して作品を完成させました。文章整理の段階で、番匠さんの言葉と向き合っているうちに、取材を通して一貫して番匠さんが伝えたかったことが見えてきたので、「聞き書きってこういうことなんだ」と実感しました。

【成果発表会】

このようにしてつくりあげた作品が、農林水産大臣賞に選ばれました。賞に選ばれたと聞いたときは、妥協せずに取り組んでよかったという気持ちと、番匠さんに取材しなければ成し得なかったことだと思い、感謝の気持ちでいっぱいでした。

成果発表会は、「国立オリンピック記念青少年総合センター」にて行われました。私は氷見市の紹介をし、トークセッションを行いました。また、氷見班で、取材で経験したことの共有をしました。番匠さんが成果発表会のためにわざわざ来てくださったこと、久しぶりに仲間たちに会えたことなど、とても有意義な時間を過ごすことができました。

① トークセッション

文筆家の阿川佐和子さんと塩野さん、そして番匠さんと私の4人でトークセッションを行い、取材をする中で感じたことなどを話しました。阿川さんに質問された際にうまく返せず、悔しい思いをしましたが、とても楽しい時間を過ごすことができ、貴重な経験になりました。

② 氷見班で取材内容の共有・氷見市の課題解決に向けた話し合い

成果発表会終了後には、取材した地域と今後どのように関わるかを班ごとに考え、発表するワークショップが行われました。はじめに、それぞれが取材先でどのような経験をしたのかを共有しました。そして、取材をする中で感じた氷見市の良い点、不便な点を挙げ、どのようにすれば現状の問題が解決できるかを話し合いました。私たちは、氷見市は少子高齢化による人口減少が進んでおり、魅力がたくさんあるにも関わらず、交通の便が悪いことなどから観光に訪れる人が少ないことに着目しました。そこで、都市部の人を関係人口にする計画を考えました。移住してもらうための対策よりも、リピーターとして氷見市に関わってもらうことの方が取り組みやすいと思ったからです。取材の中で感じた氷見市の魅力を伝えられるような案ができたのではないかなと思います。

【聞き書き甲子園を通じて】

聞き書き甲子園に参加して、全国各地から集まった仲間たち、GLの方々、市町村担当者の方、名人など、自分とは違う人生を歩んできた方々と交流したことで、刺激を受け、向上心が高まりました。聞き書き甲子園での活動が終了した今でも連絡を取り合うような仲間が全国にできたということは、私の一生の財産です。私もGLとしてこの活動を支え、経験したことを後輩たちに伝えていきたいと思っています。また、訪れたことのない土地で、初めて会う名人に取材したことで、行動力が高まりました。取材準備から作品の完成までを妥協せずにやり遂げたことで、目標達成力がつき、自信に繋がりました。そして、自然と密接に関わる職業だからこそ環境破壊を身近に感じている名人に直接取材したことで、環境破壊の伝統文化への影響を知ることができ、以前から興味があった環境問題への関心が高まりました。伝統文化やその名人を守るために、自然を大切にしていかなくてはならないと改めて感じました。私と番匠さんでは環境問題への視点が違うことに気づき、さまざまな角度から物事を見ることの大切さを知りました。今後は、法律や経済の立場から環境問題を捉え、世の中に貢献できる人になりたいと考えています。

 

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